竜使いの少女が恋したのは王子様でした【完】
 アウリスは、龍使いのきつい仕事も、文句一つ言うことなく、こなした。

 発酵中でまだ臭いの残る寝藁を運ぶのも、アウリスは一瞬、顔をしかめたものの、何も言わず、頑張った。私が手伝おうとすると、

「大丈夫。これは俺の仕事だから、レイナは自分の仕事をしておいで」

と微笑んで断る。

「俺は、レイナを守れる男になるって決めたんだから、これくらいできるようにならないとな」

体中が痛くなる肉体労働の日々を、アウリスは全く根を上げることなく乗り越えた。



 凍てつく極夜の季節になると、竜は巣ごもりに入る。昼間でも薄暗い中を、私はアウリスと共に、松明(たいまつ)を手に竜の巣を見回る。すっかり凍った湖の(ほと)りでは、外気そのものが痛い。それでも、アウリスは文句を言うどころか、私を気遣い、足を滑らせそうになる私を庇ってくれる。

 家に帰れば、慣れない手付きで革を裁断し、鞍を縫い上げる。アウリスは、何度も針で手を刺しながらも、ひと針ひと針、丁寧に仕上げていく。

 昨年までの父と2人の生活とは大きく変わった。仕事とはいえ、ずっと無言で働いてるわけじゃない。アウリスと他愛もない話をしながら、働くことは、とても楽しかった。



 そうして、再び春が訪れる。メスの竜は卵を産み、オスの竜は献身的にメスに餌を運ぶ。竜の仲睦まじさは、本当に微笑ましい。与えられた餌を自ら食べることなくメスに運ぶ竜の姿を見て、アウリスは言った。

「俺も、あんな風にレイナを守れる男になるから」

「……うん」

1番仕事が大変な季節をアウリスは乗り越えた。もしかして、私は本当にアウリスと結婚できるの?

 子供の竜を訓練し、人を乗せて飛べるようになったものが、売られていく。


 そうして、夏が過ぎ、秋になると、父が言った。

「国王陛下にご挨拶に伺わなければいかんな」

それって……

「結婚前にアウリスのご両親にご挨拶しないわけにはいかんだろ」

「はい!」

アウリスは、嬉しそうに返事をする。

本当に?
本当に、私、アウリスと結婚できるの?

子供の頃から、ずっと好きだったアウリス。

一度は身分違いだと諦めたアウリス。

それなのに、本当に?

「レイナ……」

私の名を呼んだアウリスは、そっと私の頬を伝う涙をその手で拭った。

「俺、必ず、レイナを幸せにするから……」

「……ん」

私は、もう、言葉にならなくて、無言のまま、ただひたすらに頷いていた。

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