竜使いの少女が恋したのは王子様でした【完】
 遊び疲れた私は、父の腕の中で眠りに落ち、気付けば自宅のベッドで朝を迎えていた。

あれ?
アウリスと遊んだのは、夢だったのかな?
とっても楽しかったのに……

不安になった私だけど、スカートのポケットから、萎れた鈴蘭の指輪が出てきたのを見て、夢じゃないって確信した。

「お父さん、お父さん、おはよ!」

私は、父を叩き起こした。

「ん? なんだ?」

「これ、どうやったら元に戻る?」

私は、まだ眠そうに目蓋をこする父に萎れた鈴蘭の指輪を差し出す。

「枯れた花は、元には戻らないよ」

父は、あくびをしながらそう答えるが、それで諦めるには私はまだ幼すぎた。

「じゃあ、マリッカおばさんとこ、行ってくる」

私が駆け出そうとすると、父が止めた。

「おいおい、いくらなんでも、早すぎるだろ。
 せめて、マリッカおばさんが、朝食と洗濯を終える頃にしなさい」

「でも、そしたら、もっと萎れちゃう!
 ちゃんと謝るから、今、行ってくる」

私は父の言葉も聞かず、家を飛び出した。



 マリッカおばさんは、母が亡くなってから、ずっと私やお父さんを気にかけてお世話をしてくれてる隣のおばさん。隣って言っても、5〜600メートル、山を下った所に住んでいる。花を育てるのが上手で、庭中が綺麗な花で埋め尽くされている。

 私は、坂道を駆け下りてマリッカおばさんちの玄関の戸を叩いた。

「マリッカおばさん、おはよう!
 お願いがあるの!」

しばらくして、玄関の戸が開く。

「おはよう、レイナ。
 どうしたんだい、こんな早くに?」

おばさんはエプロンで手を拭き拭き、現れた。

「朝から、ごめんなさい。
 あのね、この指輪を元に戻して欲しいの」

私は、萎れた鈴蘭の指輪を差し出す。

「うーん……
 だいぶ萎れてるねぇ。
 だったら、おばさんが新しいのを作ってあげるよ」

おばさんは、萎れた指輪を手に取って眺めながら答える。

「ダメなの。
 これね、アウリスが作ってくれた指輪だから、これじゃなきゃダメなの」

「アウリスって誰だい?」

「昨日、行ったお城のアウリス。
 ほんとは、王子様なんだって」

私がそう言うと、おばさんは目を丸くした。

「なんだって!?
 ほんとに王子様にもらったのかい?
 それはなんとしても、綺麗にしてあげなきゃね。
 じゃあ、一度水に浸して元に戻してから、綺麗にドライフラワーにしてあげよう。
 それでいいかい?」

気のいいおばさんは、笑顔でそう言ってくれた。

「うん! ありがとう!!」

私は、おばさんに指輪を預けると、今度はきつい登り坂を幼い足で懸命に登る。


「ただいま!
 マリッカおばさんが、綺麗にドライフラワーにしてくれるって!
 良かった!」

こうして、いつもの日常に戻る。


 それから、ひと月ほどで指輪はカサカサに乾燥したドライフラワーになって返ってきた。

 私は、それを小さな箱に入れて飾り棚の引き出しにしまった。幼い日の思い出と共に。






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