身代わり花嫁なのに、極上御曹司は求愛の手を緩めない
すると彼はしばらく無言だったが、静かにため息をつくと、私の肩を叩く。

「本当に無理はするなよ」

「はい……」

「それ、食後に切ってくれ。せっかくだからいただこう」

手を洗いに向かいながら告げられ、私の顔がぱっと輝く。

ひさしぶりにふたりで食べた晩ごはんはとてもおいしかった。

食後、紅茶を淹れ、パウンドケーキをカットしてお皿に載せる。一晩寝かせるとより味が馴染んでしっとり濃厚になるけれど、私は焼き立てのふわふわしたものも好きだった。

ほんのり温かいそれを口にした菖悟さんは、一瞬「おや?」というような表情になる。

「思ったより甘さ控えめでしょう?」

私は彼に微笑みかけた。

「ああ、これならいくらでも食べられる」

彼は普段、お菓子の類をほとんど食べないらしかった。けれど私のパウンドケーキは気に入ってくれたようだ。ほろ苦い抹茶の風味を楽しめるよう、豆乳を使ったり工夫したのが幸いだった。

大満足で食事を終え、後片付けをすると、交代でお風呂に入った。
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