身代わり花嫁なのに、極上御曹司は求愛の手を緩めない
「この部屋に一晩紗衣がいなかっただけで恋しかったぞ」

あたふたしていると静かに告げられ、彼がどれだけ私を想ってくれていたのか身につまされる。

「……ご心配をおかけしてすみませんでした」

私もひとり暮らしをしているワンルームはとても落ち着いたけれど、菖悟さんがいなくて寂しかった。だからこうしてすぐに戻ってきたのだ。

言葉にできない代わりに、私からもそっと抱きついた。

「紗衣」

名前を呼ばれ、顔を上げると唇が重なった。とっさにきゅっと口を結ぶと、菖悟さんはクスクス笑う。

「そんなに噤んでいてはキスできない。口を開けろ」

唇のあわいに舌先を押し当てられ、「……この間は上手にできただろう?」となまめかしく吐息で囁かれた。

彼はこういうとき、本当に色気がすごい。

一瞬で変貌した彼に、私はカチカチに固まってしまう。
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