身代わり花嫁なのに、極上御曹司は求愛の手を緩めない
一夜限りの幸せ
菖悟さんのおかげで、私は以前よりももっと仕事が楽しくなった。適度に肩の力が抜け、より自然体でお客さまと向き合えるようになった気がする。

これから仕事もプライベートもきっとうまくいく――マリヨンに川嶺さまが来館したのは、そう思い始めた矢先のことだった。

彼女の用件がわからず、私は一瞬頭の中が真っ白になる。

動揺を抑え、彼女をブース席に案内すると、あいりちゃんが温かい紅茶を運んできてくれた。その顔には私を案じる色がある。

川嶺さまと会うのは、実に一ヶ月ぶりだった。

「このたびは多大なご迷惑をおかけし、本当に申し訳ありませんでした」

ふたりきりになると、川嶺さまは私に頭を下げた。

私は慌ててテーブル越しに彼女を制する。

「川嶺さま、どうかお顔を上げてください」

「あれから何度も連絡をくださったのに、ずっとお返事できず、心苦しく思っていました」

川嶺さまは華奢な手で口もとを覆い、今にも泣き出しそうな表情をした。相当思い詰めてここにやってきたのだろうと私は察する。
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