身代わり花嫁なのに、極上御曹司は求愛の手を緩めない
「はい、菖悟さん。今日のお礼です」

私は手のひらに収まるくらいの小ささの、カメのぬいぐるみが付いたキーホルダーを差し出した。

館内の売店で、菖悟さんに内緒で買っていたのだ。

菖悟さんは面食らった顔する。

「これを俺に?」

「はい。かわいいでしょう?」

「かわいいが、俺にこんなものを寄越した奴は初めてだな」

「すみません、いらなかったですか?」

おとなの男性にプレゼントするには子どもっぽすぎたかもしれないと、私はあたふたした。

「いや、うれしいよ。ありがとう。これを紗衣だと思って持ち歩こう」

菖悟さんはキーホルダーを指に引っかけ、私に向かってぷらぷらさせた。

「え、私カメですか?」

目をぱちぱちさせた私に、菖悟さんは小さく噴き出す。

「そうは言っていないが、確かにどちらもかわいいな」

「……カメのほうがかわいいです」

もごもご呟くと、今度は声を押し殺して苦笑いされた。

いつまでも小刻みに揺れる肩に、私はむくれてしまう。

「笑うなんてひどいです……」
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