身代わり花嫁なのに、極上御曹司は求愛の手を緩めない
初めてひとつになったとき、涙が私の瞳を覆った。彼はそれを生理的なものだと思ったのだろう、私の体を気遣って動きを止めた。涙の真意は、決して気づかれてはいけない。けれど切なくて、胸が張り裂けそうだった。今この瞬間に時が止まればいいのにと、私は心の中で叫び声を上げる。

菖悟さんが好きです。この先もずっと、菖悟さんのそばにいたいです。

けれどそれは決して口にしてはいけない。願ってはいけないのだ。

「……ぅ……っ」

彼への愛惜を断ち切るように、その広い背中から手を離し、シーツを握り締めた。

彼はすぐにそれに気づくと、私の手をシーツから引き剥がし、指先に甘く噛みつく。

「しがみつくなら俺にしろ」

「……っ、……」

……今夜だけは溺れたい。自分を抑制する気持ちとは相反する欲望が湧き上がり、たまらなくなった。

再び彼の背中に腕を回し、ぎゅっと抱きついて私は初めて彼に甘える。

彼に身も心も愛され、たった一夜の幸せを噛み締めた。
< 118 / 146 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop