身代わり花嫁なのに、極上御曹司は求愛の手を緩めない
唇を啄まれ、私は真っ赤になった。訊いたのは私だけれど、彼はとても直截的な言い方をする。

羞恥に耐えられず、俯いて口ごもっていると、菖悟さんはさりげなく私の左手薬指の付け根を指で摘まんだ。

「指がどうかしましたか?」

彼はなぜか答えず微笑むだけだ。

「菖悟さん?」

「またしような?」

なまめかしく囁かれ、私はとっさにがばっと起き上がった。

動揺を押し隠すように、口早に告げる。

「そ、そういえば私、今朝は少しだけ早出でした。そろそろ用意しなきゃ」

彼を振り返ることなく、慌ただしく部屋を出てバスルームに向かった。ドアを閉め切り、完全にひとりになると、私は叫び出しそうな口を両手で必死に押さえる。

また、と言われたことで、またなんてないのだと痛感させられた。昨夜が幸せすぎた分、自分の決断が重くのしかかって耐えられなくなる。

私はばかだ。最後の思い出作りなんて余計につらくなるだけだった。

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