身代わり花嫁なのに、極上御曹司は求愛の手を緩めない
「山岡さんが退職せずに済むように、菖悟さんに話してみます」

もちろん彼があっさり解雇にならないよう、できる限りのことはするつもりだった。

けれど山岡さんは「退職ですか?」と首を傾げる。

「はい。……以前菖悟さんが、私が送迎を必要としないなら、山岡さんは解雇になると」

言いにくそうに口にすると、山岡さんは一瞬虚を衝かれた顔をした。けれどすぐにいつもの笑みを浮かべる。

「それは菖悟さまの今井さまへの愛情ですね」

「え?」

「私は普段、高須賀家で家政や資産管理を統括しておりまして、こういった車での送迎は行っていないのです。ですので解雇になることはありませんのでご安心下さいませ。今井さまが断りにくくなるように、菖悟さまは優しい嘘をついたのでしょう」

私の送迎は、「紗衣が心配だから」と、山岡さんが菖悟さんから特別に拝命を受けたらしかった。

何も知らなかった私は、その場に立ち尽くしてしまう。私は本当に最初から、彼に愛情をかけてもらっていたのだ。

山岡さんは静かにお辞儀をすると、高須賀家へ帰っていった。
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