身代わり花嫁なのに、極上御曹司は求愛の手を緩めない
「……っ」

真実を知り、決心が揺らぐのを抑えきれない。

けれどもう、後戻りできなかった。

それを自分自身に思い知らせるように、私は賑やかな街中に向かう。静かすぎる場所は菖悟さんの反応がクリアに聞こえ、きっと耐えられないからだ。

震える手でスマートフォンを取り出し、菖悟さんに電話をかけた。

『どうした? 今夜も遅くなるのか?』

彼の優しい声に、私の胸は引き絞られた。

こんなふうに気づかってもらえるのは、これが最後だ。私は彼のすべてを心に刻み込む。

「……いいえ。私はもう、菖悟さんのマンションには戻りません。今までありがとうございました」

感情的にならないよう、淡々と告げた。

やや間があって、菖悟さんが声をひそめる。

『いきなり何を言っているんだ?』

「川嶺さまを幸せにしてあげてください。私はそれを望みます」
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