身代わり花嫁なのに、極上御曹司は求愛の手を緩めない
「……結婚式のことは、本当にごめんなさい」

「いや、俺も態度が悪かった」

けれどふたりの会話が鮮明に耳に届き、私は逃げ出したくなった。自分の非を認め、真摯に謝罪する菖悟さんに、胸が締めつけられる。

「菖悟さんが私に謝ってくれるなんて……。私、これからは菖悟さんのよい妻になれるように、一生懸命がんばります」

川嶺さまは戸惑いつつもうれしそうだった。以前とは違い、ふたりはとてもいい雰囲気だ。

「俺の妻? 俺はそういうつもりで謝ったんじゃないが」

けれど菖悟さんは、川嶺さまの決意を撥ねつけた。

「え?」

うまく進みそうな気配が一変し、川嶺さまが硬直したのが伝わってくる。

「あいつに言われたんだ。相手の気持ちを考えたことはあるのかと」

菖悟さんの声に、私は目を見開いた。

彼は一ヶ月前に思いを馳せるように、静かに続ける。

「あいつのおかげで俺は気づけた。俺はおまえの何も見ようともせず、本当に申し訳なかったと思っている。でも俺はこの先もおまえを愛せない」

愛せないとはっきり告げられた川嶺さまは、言葉を失った。

張り詰めた沈黙が流れる。

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