身代わり花嫁なのに、極上御曹司は求愛の手を緩めない
「そんな泣きそうな顔をして、かわいそうに」

独り言のような北瀬マネージャーの呟きに、私は唇を噛み締めた。

北瀬マネージャーはおもむろにカトラリーのナイフを手に取る。そうしてテーブルの端にするっと滑らせた。

それは大きな金属音を立てて床に転がる。

「北瀬マネージャー、何を……」

「北瀬? ……と、紗衣か?」

背後から、困惑を滲ませた菖悟さんの声が投げかけられた。

気づかれた――。

身を強張らせる私を尻目に、北瀬マネージャーはマイペースを崩さない。

「わあ高須賀、偶然だね。ね、今井さん」

誰がどう見ても偶然なはずがないのに、北瀬マネージャーは平然と言いのけた。私はもう目の前の彼を見ることも、菖悟さんと川嶺さまを振り返ることもできない。

「ちょうどよかった。このあと紗衣を迎えに行くつもりだったから」

けれど北瀬マネージャーに淡々と告げる菖悟さんに、私は目を瞬かせる。

「え……?」

……一体今ここで何が起こっているのだろう。

私の頭では把握できず、激しい混乱に襲われた。

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