身代わり花嫁なのに、極上御曹司は求愛の手を緩めない
「遅くなってすまない」

すると五分も経たないうちに高須賀さまがやってきて、私は胸を撫で下ろした。仕事帰りなのだろう、高須賀さまはかちっとしたスーツ姿で髪もきれいにセットされている。相変わらず人目を引く方だなと、私は早速見入ってしまう。

「私も今来たところです」

立ち上がろうとした私に、高須賀さまはそのまま座っているよう促した。

再び現れた支配人に椅子を引かれ、彼も着席する。どうやら食事は私と彼のふたりきりのようだった。

「フルコースを予約しているが、飲み物は何がいい? 好みのワインは?」

高須賀さまが私に問うと、ソムリエらしき男性がやってきて、私にメニュー表を手渡そうとした。

けれど私はそれを固辞する。

「いえ。私は仕事中なので、お酒はご遠慮いたします。ウーロン茶をいただけますか」

言うまでもなく、今夜の高須賀さまとの食事は仕事の一環だった。北瀬マネージャーからもタイムカードの退勤時間は打刻せずこちらに向かうように言われたし、私は制服のパンツスーツ姿のままだ。飲酒なんてとんでもない。
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