身代わり花嫁なのに、極上御曹司は求愛の手を緩めない
激情に駆られてまくし立てた私に、彼は驚いた顔をする。

「俺は沙絵の何も見ようとしていなかったんだな」

けれど彼は素直に認め、目を伏せた。私はそれに、一気に毒気を抜かれてしまう。どうやら彼は、人の話を聞かないタイプというわけではないようだった。

「ひたむきに取り組んでいた沙絵に気づかずないがしろにし、俺は結婚式の打ち合わせにすら行こうとしなかった。忙しかったとはいえ、時間を作ることもせずに。本当にひどい男だな」

彼は自分を省み、懺悔した。

私は口を挟まず、彼をじっと見つめる。

「……結局俺も、愛のない結婚に耐えられなかったんだろう。沙絵には申し訳ないことをしたが、お互いにこれでよかったのかもしれない」

彼らは考え方に相違があり、温度差がありすぎたのだ。そして互いを信用できず、決定的にすれ違ってしまった。
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