身代わり花嫁なのに、極上御曹司は求愛の手を緩めない
唐突に問われ、私は返答に窮した。もし本当に彼と結婚するならば、私が借りている部屋はたぶん解約することになるだろう。けれどその決断をするのは尚早に思えた。ここで彼と暮らし始めて、まだ三日しか経っていないのだ。

「あ、えっと……」

けれどそれをそのまま正直に口にするのは憚られ、私は挙動不審になった。

すると頭の上に大きな手が載せられる。

「早く俺を好きになれ」

優しく髪を撫でられ、甘く口説かれた。彼に触れられるとそれだけで、心が揺れ動かされる。

この三日、あまり顔を合わす時間がなかったとはいえ、彼とは不思議と波長が合うのを感じていた。だから気持ちをゆっくり育んでいければいいなと思う。それは本心だった。

けれどまだそれを言葉にできない。

「……」

「じゃあ俺は仕事に行ってくる」

「……はい、いってらっしゃいませ」

おもむろに顔を見上げると、菖悟さんは私の髪をくしゃっと掴んだ。その表情は柔らかく、何も答えられない私に怒っていない様子でほっとする。

とりあえず今夜のレセプションパーティーではしっかり彼の妻になりきろう。彼を見送りながら、私は心の中で呟いた。
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