身代わり花嫁なのに、極上御曹司は求愛の手を緩めない
「高須賀さま。川嶺さまは……」

「逃げたんだろ」

感情の読めない声で、高須賀さまは端的に吐き捨てた。

「え?」

「俺と結婚するのが嫌だったんだろ。だがここまで責任感のない女だとは思わなかった」

高須賀さまは手にしていたウエディングドレスをソファの上に放り投げた。ボリュームのある純白のチュールが無残に床を這う。私は走り寄り、それを掻き抱いた。

それは川嶺さまが何度も試着を重ねて選んだ、彼女が一番美しく見えるドレスだった。フィッティングの際、私が絶賛すると川嶺さまは、「これなら菖悟さんにきれいだって言ってもらえるでしょうか?」とその場にいない高須賀さまを想ってはにかんでいた。私はそれに、彼女の健気さと確かな愛情を感じたのだ。こんなふうに簡単に投げ捨てられていいものじゃない。

「最初から、愛のない政略結婚だ」

けれど高須賀さまはそう、彼女のことも見捨ててしまう。

「そんな……」

私は声を震わせた。
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