満月の哀



別れたあの人は、


キスをする度に、私の唇に優しく触れる。


それはまるで傷ついた唇に手当てするように。


その後、決まって言うのだ。


「今日は、何があった?」


決まって私は首を横に振る。


「何もないよ。」


そう微笑めば、あの人は悲しそうに


「ならいいんだ。」


眉を下げて笑うのだ。


そのまま何もなかったように、


あの人は、私に触れてくるのがいつもの事。


目が笑ってない蔑んだ目で、私を見下ろすのに


キスだけは優しいのもいつもの事だった。
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