その手をつかんで
他の人がいる場で、手とはいえ突然キスするなんて!

私は周囲を気にして、アタフタした。しかし、彼は懲りずに今度は顔を寄せてくる。

近い、近い!

今度は何するつもり?


「反応がいちいちかわいいのが、いけない。あちこちキスしたくなるね」

「えっ! ダメですよ。こんなところではダメです」

「どこならいい?」

「どこって……私たちしかいないところなら」


蓮斗さんは「んー」と考えるように視線を空に向けた。

どんな答えが返ってくるのだろう。待っている少しの時間、胸の鼓動が速くなった。


「明日花の部屋、行ってもいい?」

「私の部屋? いいですけど、狭いですよ?」

「明日花といられるなら、どこでも……あ、これいいね」

「えっ?」


蓮斗さんは話の途中で、足を止めた。彼がいいねと言ったのは、マネキンが着ているボルドー色のワンピース。


「明日花に似合いそう。試着してみない?」

「えっ、でも……」


確かに素敵なワンピースだけど、ここのブランド服は高すぎる。一度も足を踏み入れたことがない……。

尻込みしていると、店員さんが表に出てきた。
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