その手をつかんで
「いらっしゃいませ」

「そのワンピース、試着出来ますか?」

「はい、ぜひ試着してください。彼女さんによく似合うと思いますよ」

「そうでしょ? すごく似合うと思うんだよね。明日花、着てみて」


店員さんはニコニコしながら、マネキンから服を脱がせる。こんな状態で断れるわけがない。

着るだけなら……コートを買う予定だったお金が浮いてるから、それで買えるかな?

いくらだろう?

フィッティングルームでこっそり確かめた。

着る前に値札を見て、目が飛び出そうになる。コート2着分の金額だったからだ。柔らかい生地で、とても着心地がいいのだけど、簡単に買えるものではない……。

どうしよう、買わないという選択は出来るだろうか。

私は顔を引きつらせながら、試着した姿を蓮斗さんにお披露目した。


「お! かわいい」

「まあ、やっぱりよくお似合いですね!」


蓮斗さんと店員さんに褒められて、困った。これは買わないといけない流れになるのでは……。


「そ、そうでしょうか?」

「明日花は気に入らない? ほんとよく似合っているのに」
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