その手をつかんで
鏡にうつる全身をチェック。このシルエットは好みだし、サイズも合っている。気に入らなくはない。

でも、こんな高いの買えないもの。


「着替えてから考えてもいいですか?」

「はい、ゆっくり考えてください。他にも気になるのがあったら、試着しませんか? こちらとか……」

「いいえ! こちらだけでいいです。蓮斗さん、着替えますね」


店員さんが他のをすすめようとしたから、慌てて拒否した。買わないのに、いくつも試着出来ない。

しかし、これどうしたらいいだろう。クレジットカードで払えば、なんとかなるかな。貯金減るけど……。

買うという覚悟ができなく、のろのろ着替えて、フィッティングルームを出る。

「ありがとうございました」と店員がにこやかに脱いだワンピースを受け取った。

あれ?

どうなさいますかと聞かないのかな?

あっさり「またのご来店をお待ちしております」と見送られてしまう。なんだか拍子抜けした感じ……あれ?

蓮斗さんが持っている紙袋、増えている?

隣に並ぶ蓮斗さんの荷物を見ると、紙袋がひとつ増えていた。

まさか……。

私が時間をかけて着替えている間に?
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