その手をつかんで
私は「おはようございます」と頭を下げる。蓮斗さんは「なにか?」と用件を聞いた。


「朝から、すみません。社長室に来ていただけますか? お話があるそうです。えっと、そちらの野崎さんも一緒にいらしてください」

「明日花も?」

「はい、その方が良いかと思われます。昨夜、話はされていますよね?」

「実は、彼女にはまだ話していなくて」


蓮斗さんは気まずそうに私を見た。

昨夜、急遽帰った蓮斗さんから電話がかかってきたのは日付が変わる少し前だった。

私は彼からの連絡をベッドで横たわって待っていたが、瞼が閉じかけていた。私の声から眠そうなのを蓮斗さんは感じ取って、後で話すと通話をすぐに終わらせた。

今日ここで話を聞こうと思っていたのだけど、まだキスされただけでまともな話をしていない。

私まで社長室に呼ばれる理由は、なんだろう?

瑠奈の家で会った社長の怒った顔が思い起こされる。また何か言われるのかな?

ちらりと蓮斗さんを見てから口を開く。


「私も行ったほうが良いなら、行きますけど」

「明日花、心配しないで。もう傷付けるようなことは言わないはずだから」

『はい……」
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