その手をつかんで
蓮斗さんは私を安心させるかのように手を握った。だけど、不安な気持ちは簡単に消えない。

社長室は専務室と同じ階にある。秘書の後ろを蓮斗さんと並んで歩いた。


『おふたりをお連れいたしました」


私は入り口で『おはようございます」と挨拶した。


『ああ、野崎さんも一緒だったのか」


社長は椅子から立ち上がった。前会った時のような不信感を抱いた顔はしていなかった。

だけど、威圧感は変わらない。

緊張で背筋を伸ばした私の背中に、蓮斗さんが手を軽く添える。


「毎朝顔が見たいので、呼んでいました」

「なるほど。蓮斗のわがままに付き合わされてかわいそうに。忙しい朝に悪いね」


私は社長に謝られて、恐縮した。


「いいえ。私も会いたいと思っていましたので、大丈夫です」

「そうか、それなら良かった。野崎さん、前に責めて悪かったね。事情をちゃんと聞かなくて申し訳なかった」

「いいえ! そんな謝らないでください。誤解だとわかっていただけたなら良かったですから」


社長に頭を下げられると、戸惑ってしまう。挨拶するために私は繋いでいた手を離していた。その手を蓮斗さんは再度しっかりと握る。
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