その手をつかんで
社長室で密着しなくても……と思うが、振り払えない。

昨日から触れられることが多くて、私は戸惑ってばかりいる。

私たちを見ていた社長は目尻を下げて、微笑んだ。


「蓮斗は野崎さんとしか結婚しないと言っているけど、野崎さんも同じかな?」

「はい、私も蓮斗さんだけと思っています。でも、本当に私でいいのかなとも思っていまして……」


蓮斗さんは昨日のことを早々と報告している。だけど、彼の両親がどういう考えなのか知らない。

私では合わないと思っているかもしれない。昨日彼を呼んだのは、私とのことを聞くためだったようだ。

蓮斗さんから結果を聞いていないから、不安になる。彼に顔を向けると、優しい目で私を見ていた。


「さっきも言ったけど、明日花が心配するようなことは何もない。ちゃんと父と母には納得してもらっているよ」


蓮斗さんの言葉は信じられるけど、どうしても不安になって、社長の顔色を窺ってしまう。変わらず穏やかな表情をしているけれど……。


「野崎さんが心配になるのは、きっと私のせいだね。だけど、蓮斗が言うように今はふたりの結婚に賛成しているよ。だから、安心して」

「はい、ありがとうございます」
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