その手をつかんで
聞いてくれと言われて、聞かないわけにはいかない。

観念して聞く姿勢を見せるしかなかった。何を言われるのか予想出来ないが、またもや良いことではない予感だ。


「聞きますので、手を離してもらえますでしょうか?」

「ああ、悪かった」


蓮斗さんは半歩下がる。手を離しても、私から視線は離さない。

心が落ち着かなくて、私は床に視線を落とした。

彼に「明日花さん」と呼ばれる。


「はい?」

「お試しでいいから、付き合ってみない?」

「お試しで付き合う?」


言われた言葉をリピートする。蓮斗さんは「うん」と力強くうなずいた。

どういうことだろう?
試しに付き合うとは?

意味を考える私の肩に瑠奈が手を置く。


「明日花、深く考えなくていいのよ。お試しなんだから、イヤだと思った時点で断ればいいの」

「イヤだと思ったら?」

「そうよ。お兄ちゃんは無理強いする人ではないからね。食事でもして、どんな人か明日花の目で見極めてみて」

「そんな……見極めるとか偉そうなこと、私には……私のほうこそ違ったと思われるかもしれないし」
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