その手をつかんで
「純粋な方なんですね。とても可愛らしいです」


そんなかわいく思われるようなこと、していない……だけど、人に見られていたのが恥ずかしくて、蓮斗さんのシャツの袖をつかむ。

この場から抜け出した気分だったから。当日の予約も済んだから、もう帰っていいはず。

しかし、彼は私の意図を汲み取らず、私の肩を抱いた。


「ええ、本当にかわいくて困っています」

「まあ、大事にされているんですね」

「はい、そうです」

「素敵なご関係が羨ましくて、私も恋したくなります」


スタッフは私たちが帰るまで、微笑ましそうに見ていた。

蓮斗さんはタクシーに乗ると、とあるホテルの名前を運転手に告げる。


「お腹空いたよね? レストランを予約してあるから、食べて帰ろう」

「はい! 実はお腹ペコペコだったんです」


いつもなら夕食を食べている時間だ。帰ったら何を食べようかなとこっそり考えていた。

だから、夕食まで用意してくれていたのが嬉しい。蓮斗さんは気配り上手で、こっちが考えるよりも先に行動する。

せっかちな部分はあるけれど。
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