その手をつかんで
楽しみにされるとハードルがあがるかも……。何を作ろうかと退社するまでに考えた。

定時で会社を出て、急ぎ足で歩く。今日は北風が冷たい。秋は慌ただしく過ぎていき、季節はもう冬だ。

街の至る所がクリスマスイルミネーションで華やかに彩られる中、足を留めて写真撮影を楽しむ人もいるけれど、私のように気にすることなく急ぐ人も少なくはない。

寒いから、鍋物がいいかも。足りないものはないかと、家にある食材を思い浮かべる。

蓮斗さんが来るまでの時間を逆算して、エプロンを身につけ、野菜からカットしていく。

料理の過程で一番好きなのは、この野菜を切る時。無心になって作業していると、とんでもない量を切ることもある。

多く切りすぎても冷凍しておけば、いつでも使えるので問題はない。だけど、冷凍室が入り切らなくなることもたびたび。


「蓮斗さん、お疲れ様です。狭いですけど、どうぞ」

「おじゃまします……とても美味しそうな匂いがするね」


蓮斗さんは鼻を動かしながら、部屋に入った。彼からコートとスーツの上着を預かり、ハンガーにかける。


「今日は寒いので、寄せ鍋にしました」

「いいね。この冬、初めて食べるよ」
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