その手をつかんで
「運転中じゃなくて、ちゃんと向き合って話すべきだろうけど……仕事で悩んでいると聞いたんだけど」

「あー、瑠奈ったら、そんなことも話したんですね」

「うん。でも、内容は聞いてなくてね。力になれるかはわからないけど、良かったら話してみない?」


この人は本当に優しい人だ。私のことを思って、聞いてくれる。無理に聞き出そうとしないのが、彼らしい。


「瑠奈に話しているのは悩みというか、愚痴なんですよ。まだ社会人になって、一年しか経っていないので」

「誰にでも不満はあると思うよ。もちろん俺だって。愚痴でもいいよ、話してくれるなら聞きたい」

「私学校栄養職員として、ある私立校の給食室で働いているんですけど」

「なるほど、そういうところで働いているんだね」


瑠奈は細かなところまで、他言する人ではない。私の職場についても話してはいなかったようだ。

悩んでいるらしいとだけ蓮斗さんに伝えるという配慮が瑠奈らしい。

蓮斗さんも無理矢理に瑠奈から聞き出してはいない。本人のいないところで、あれこれ話をしない人たちである。
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