その手をつかんで
そんなたらればをしても、今の私の気持ちに変化はない。

蓮斗さんがグイッと私の顔に接近してきた。近くに来られたら、毛穴が気になってしまう。開いてないかな……。

モゾモゾとお尻を後ろへと動かす。近くで見られるのは、どうも居心地が良くない。堂々とお見せできるほどの自身がある顔面をしていない。

反して、蓮斗さんの顔は整っていて、肌もきれいだ。

私の顔に寄らないで……距離を取ろうとする私の腕を蓮斗さんが掴んだ。思わずビクッと体を揺らす。


「どうして離れようとする?」

「だって、毛穴が……じゃなくて、ここ会社ですし、もし誰かに見られたら誤解されてしまうかもしれませんよ」

「どういう誤解?」

「私たちが親しいとか」


蓮斗さんは不機嫌そうな顔をして、私に身を寄せた。

離れるどころか、接近されるとは……。


「誤解されたくない理由でもある? やっぱ杉田くんに知られたくない?」

「えっ、杉田くん?」


何でまだ杉田くんを出すのだろうか。

好きではなかったと答えたよね?


「再会して、さらにかっこよくなっていたからときめいた?」

「ときめく? 杉田くんに?」

「そう。違う?」

「違います! 全然ときめいていないですよ」
< 54 / 180 >

この作品をシェア

pagetop