その手をつかんで
誘われて、咄嗟に浮かんだのは蓮斗さんの顔。お試しとはいえ、彼とお付き合いしている身で、他の人との食事はよくないよね?


「ダメかな? 予定ないんだよね? 同級生として今後のこともあるから、仲良くしたいんだけど」


今後のことを考えたら、杉田くんとは同級生のよしみで、親しくしておいた方がいい。

たかが食事くらいで、躊躇うことではないのかも。


「うん、そうだね……食事だけなら」

「もちろん食事だけだよ。変に警戒しないでね」

「ごめん。変に警戒してたかも。ただ食事するだけなのにね」


杉田くんは謝る私を見て、目を泳がせた。


「えっ、あー、いや……ちょっとだけ好意はあるけど、ほんと気にしないで、食事だけを楽しもうね」

「えっ?」

「あ、俺これから別の打ち合わせあるから、ごめん。野崎さんはこのままここで、作業していていいよ。帰りに声掛けるね」


杉田くんは慌ただしく、自分のパソコンとかを持って、去っていく。私はその様子を呆然と見ているしか出来なかった。

今、好意があると言ってたよね?
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