その手をつかんで
「お疲れ様です。あ、あの、実はこれから野崎さんと食事に行くところでして」

「ふたりで?」

「はい、そうです」


蓮斗さんは「ふーん」と返しながら、私を見る。私は杉田くんの言うことを肯定するべく、小さく頷いた。

その時、彼の瞳が鋭くなる。

やはり杉田くんとの食事は断るべきだったかな。

蓮斗さんは私からバッグを取り、私の手を握った。その握る力は強めだ。


「悪いけど、それ諦めて」

「えっ? 諦め……?」


杉田くんは、唖然として聞き返す。蓮斗さんは「そう」と短く返してから、私の手を引く。

大股で歩く蓮斗さんに引っ張られる形となり、私は足がもつれそうになりながらも付いていった。

エレベーターに乗ると、蓮斗さんは12階のボタンを押す。その階にあるのは、専務室。

上昇するエレベーター内で、蓮斗さんを窺い見る。


「あの、専務」

「もう仕事終わったんだよね」

「えっ、はい、そうですけど」

「なら、専務と呼ばなくていい」


蓮斗さんの声は不機嫌だった。声だけでなく、顔を不機嫌そうだ。
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