その手をつかんで
ゆかりさんは、キッと私を睨んで出ていった。きれいな人は目力が強いから、縮み上がりそうだ。

思わず蓮斗さんのシャツを掴んだ。


「もう大丈夫だよ。悪かったね、イヤな思いをさせてしまって」


彼は私を落ち着かせようとしたのか、頭を撫でる。子供扱いされているようで、恥ずかしくなった。


「いいえ……でも、どうして婚約者だと言ったんですか?」

「諦めてもらうには、婚約者と言うのが一番効果あると思ってね。そうだ、仮の婚約者ということにしようか」

「え、仮の?」

「うん、俺たちの間では仮だけど、人前では婚約者にしよう。そうすれば、明日花に変な虫もつかないだろうし、安心できる」


変な虫……杉田くんのことを言ってるのかな?

専務の婚約者だと言えば、誰も私を誘うことはないだろう。

でも、婚約者と公言されたら、あとから実は仮でしたと言えなくならないかな。

それにこのままでは、蓮斗さんの策略にはまってしまいそうな……。


「明日花、お腹痛くないなら、なにか食べに行こう。俺、実は腹ペコなんだ」

「あ、はい……」


不安な気持ちを抱えた状態で、とりあえず食事するしかなかった。
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