その手をつかんで
「俺も野崎さんと話したかったんだよ。杉田がガードするから、近寄れなくてね。な!」


伊藤さんは杉田くんの肩を抱いて、同意を求めた。
 
杉田くんは肩に乗った伊藤さんの手を払い、顔をしかめる。


「別にガードなんてしてませんよ。ただ専務の婚約者だという噂を聞いたと話しただけです」

「その噂、ガセだったんだろ? どうしてそういう良い情報は隠すんだよ」

「隠してないです。俺も昨日野崎さんから聞いたばかりなんですから」

「へーへー、そうですか」


ふたりのやり取りを聞いていた小川さんが笑う。


「噂に振り回されて、何をしてるんだか。でもさ、専務とは何もないとわかったにしても、別の彼氏がいるかもしれないわよ。野崎さん、どうなの?」


突然話を振られて、私は「え?」と固まった。

小川さんはにこやかな顔で私を見ているが、杉田くんと伊藤さんの表情はなぜか真剣だ。

三人が私の返答を待つ。


「えっ、あの、彼氏はいません……」


どうして私の恋愛事情を知りたがるのか理解できなく、困惑した。

杉田くんと伊藤さんは揃って、安堵した様子で息を吐く。
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