その手をつかんで
杉田くんが謝ると、伊藤さんも謝った。不穏な空気になってしまったが、小川さんが話題を変えてくれたおかげで、その後は楽しく話すことができた。

20時近くなり、私たちは店を出る。小川さん
には、一緒に暮らしている恋人が迎えに来ていた。 

ニか月後に入籍、挙式をする予定になっているそうだ。

幸せそうに帰っていくカップルを見送ったあと、残された三人で駅へと向かう。

杉田くんと伊藤さんはまた何やら言い合いをしていた。その様子を見ながら、私は付いていく。

仲が良いのか悪いのか謎だけど、本音で話せる仲なのかもしれない。微笑ましいなと思っていると、後ろから誰かに腕を掴まれた。

えっ、何!?


「あ……」


動きを止めて振り向くとそこには、蓮斗さん。彼は眉根を寄せていた。


「今、帰り? こんな時間まで残業?」

「違います。定時で退社しましたけど、総務の人たちと食事をしていて、今は帰るところです」


残業するのをよく思っていないみたいだ。蓮斗さんは仕事帰りみたいだが。

私が立ち止まったのを気付かない杉田くんたちは、どんどん進んでいく。
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