その手をつかんで
蓮斗さんは、私の視線の先を辿って杉田くんたちを見た。


「あー、あのふたりと?」

「もうひとり、女性もいたんですけど、先に帰りました」

「そう……送るよ」

「はい? あの、ひとりで帰れます」


断って、彼の手を解こうとした。しかし、蓮斗さんが会社の方へ顔を向けたので、私もそちらを見る。

そこには一台のタクシーが止まっていた。


「タクシーで送らせて。あそこで待たせてるから」


タクシーに乗ろうとしたら、私が見えたので小走りしてきたそうだ。

わざわざこちらに来ないで、乗ってさっさと帰ればいいのに……。


「電車で帰るので、大丈夫です」


離してくれない蓮斗さんの手を掴もうとした。その時、杉田くんの声が耳に届く。


「おーい、野崎さーん。あれ? えっ、専務?」


赤信号で立ち止まった杉田くんたちは専務に気付いて、目を丸くさせた。

蓮斗さんは私を掴む手の力を強める。離してもらおうとしていたのに、どうして?

私たちの元へと杉田くんたちは、戻ってきた。


「結城専務、お疲れ様です。あの、いつのまに野崎さんと?」
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