その手をつかんで

伊藤さんの質問に蓮斗さんは答えた。


「ああ、野崎さんと約束していたんだ。帰りは迎えに行くとね」

「え？　そんなこと言っていませんでしたよ。俺たちが送るので、大丈夫です。野崎さん、行こう」


杉田くんは蓮斗さんの言葉を信じなかった。蓮斗さんが掴んでいない方の手を握って、私を自分たちの方へ引き寄せようとする。

蓮斗さんに歯向かおうとする杉田くんの肩を伊藤さんが慌てて、掴んだ。


「お、おい、専務に何を言ってるんだよ。杉田、その手は離すべきだ……あ、申し訳ございません。こいつ、酔っているので、すみません、すみません」


ひたすら謝る伊藤さんの手は、杉田くんに払われる。伊藤さんに向ける杉田くんの表情は冷たい。


「何を言ってるのか、わからないのは伊藤さんの方ですよ。野崎さんはさっき専務とは、何の関係もないと言っていたじゃないですか。だから、絶対野崎さんは困っているんです」

「困ってるように見えなくもないけど、専務が送ると言うんだから任せよう。ほらほら、俺たちは電車で帰るぞ」

「は？　冗談じゃないです。俺はこの人から、野崎さんを守ります」