その手をつかんで
杉田くん……伊藤さんの言うように酔っているみたいだ。顔色に変化がないから、顔には出にくいタイプなのだろう。  

店を出るまでは口調も普段どおりだったけど、歩いて酔いが回ってきたのかも。

素面の杉田くんだったら、こんなにも反論しないもの。だからきっと、酔っている。

伊藤さんは引き下がろうとしない杉田くんに、狼狽えた。


「いや、守ると言ってもさ、野崎さんが望まないなら、迷惑になると思うぞ?」

「迷惑かどうかはー、野崎さんに聞きます。野崎さん、俺が守るの迷惑?」


話を自分に振られて、私はチラリと蓮斗さんを見た。


「迷惑じゃないけど、守ってくれなくても大丈夫」


私の返事にいち早く反応したのは、伊藤さんだ。

伊藤さんは、私との距離を縮めようとする杉田くんの体を押さえ、背中を叩いた。


「大丈夫だって言ってるんだから、杉田に用はないんだよ。ほら、まじで帰るぞ。すみません、失礼します」


伊藤さんは杉田くんを引っ張って、歩き出した。足取りの重い杉田くんは何度もこちらを振り返りながらも、伊藤さんに付いていく。
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