オオカミ社長の求愛から逃げられません!
とはいえ、両親に真摯に向き合っていた彼の気持ちは嘘じゃなさそうだった。私を本気で欲してくれているのだと、感じた。家柄の差を感じて逃げ出すと思っていたのに。
真剣な矢を撃たれたのなら、放たれた方も真剣に向き合うべきだ。それが礼儀だろう。
「わかりました。じゃあ晴くんでお願いします」
「え、そっち!?」
何がおかしかったのか、口元に手を当てクスクス笑っている。あれ、ちょっと外したかな?
「里香は面白いなぁ、どんどん好きになるんだけどどうしてくれるの」
「だ、だって、八神社長が呼べっていうから」
「あーもう、このまま連れて帰っちゃいたい」
なんて言いながら、優しく微笑む。そんな顔されたらドキドキしてしまいます。
「あ、あの。八神社長……じゃなくて、は、晴くん。私は今ままでろくに恋愛をしてきませんでした。正直言って恋愛にはいい思い出がありません。だからその、晴くんを満足させられないかもしれません。それでもいいですか?」
言葉にして、嫌な記憶が蘇る。ギュッと胸が苦しくなる。すると晴くんがそっと私の手を取った。
「里香に満足させてもらいたいから言ってるんじゃない。ただ純粋に一緒にいたいんだ」
「で、でも……」
「君はそのままでいい。今こうやって向き合おうとしてくれている。それだけで嬉しいよ」
目を細め、私を優しく見つめる。その深い漆黒の瞳に、全神経を奪われる。
「強引な手で君を連れ去ってしまったけど、この気持ちは嘘じゃないよ。まずはお試しで付き合ってみない?」
彼の背後には、猫が爪を立てたような三日月が浮かんでいる。それを映したばかりの瞳で彼を見つめ返す。
「はい。よろしくお願いします」
春の夜風に吹かれながら、私は彼とのお付き合いを決めた——。