オオカミ社長の求愛から逃げられません!
「晴くん……?」
「里香、おいで」
笑顔で手招く俺を見て、日野がギョッとしたような顔を向ける。
「は、晴くんて……」
ぶつぶつとそんな独り言をこぼすと、気を利かせ部屋を出て行った。
日野は俺の秘書で、俺が彼女に熱を上げているのも知っている。あの時必死で俺を止めていたのもこいつだ。クールで口数が少ないが、俺が一番信頼している部下。
そして彼女に甘い俺を、やや小馬鹿にしているのも知っている。きっと日野は、誰かを真剣に好きになったことがないのだろう。かく言う俺も、少し前まではそうだったのだが。
「あの、お仕事いいんですか?」
「里香と少しでも一緒にいたかったから、急いで終わらせた」
そう言えば、おずおずと中へ入ってくる。今日もエプロン姿が可愛い。小動物みたいで、そこにいるだけで俺を癒してくれる。
店頭で接客するあの笑顔も、その華奢な体も、早く全部俺のものにしてしまいたい。その欲求を抑えるのが案外大変で。自分が無理強いしてしまわないか、ちょっと心配になる。
昨夜だってOKをもらえた瞬間、彼女を抱きしめたくてたまらなかった。
「お昼をここで食べようって言われて来たんですが……」
「あぁ、こっちに座って」
いまだキョロキョロとする里香を、俺の隣に促す。ソファをぽんぽんと叩けば、里香はゆっくりと腰を下ろした。
「どれがいい?」
「え?」
「選んでいいよ。フレンチ? お寿司? お肉? どれでも好きなの食べていいよ」
俺がよく利用する店のメニューを里香に見せる。その瞬間「わぁー」と歓喜の声が上がった。こういう素直な反応がいい。俺の心をくすぐる。