結婚するのがイヤで家出したらクラスの男子と同棲することになった話【11/16番外編2追加】
リビングに戻ると、美鳥さんがキッチンに立って、狼くんのエプロンを身に着け掃除をしていた。
私が使っていた形跡をすべて消したいみたいだ。
ほっそりとしたその背中に、何と声をかけるべきかわからない。
お邪魔しました? すみませんでした?
ご迷惑をおかけしました?
どれも適当じゃないし、どれも彼女にとっては不要だろうと思った。
「……失礼します」
結局、それだけ言って玄関に向かう。
彼女からの返事はなかった。
そういえば、狼くんは彼女に玄関のスペアキーを渡していたんだな、といまさら気づいた。
私はしばらく一緒にいたけど、もらえなかったな。
ウソの彼女なんだから、当たり前か。
自嘲しながら、玄関のドアを開ける。
「バイバイ、ルポ」
それから、狼くんも。
さよなら。
いままでありがとう。
ここにはいない私の王子様に、心の中でお礼を言って、玄関を閉める。
見送りに来てくれたルポの鳴き声が、しばらく耳から離れなかった。