結婚するのがイヤで家出したらクラスの男子と同棲することになった話【11/16番外編2追加】
「……もう行こう、剣馬」
「仁葵ちゃん!」
「狼くん。短い間だったけど、ありがとう。買い物とかで使ったお金は、明日にでも返すから」
「そんなのいらないよ! いらないから……っ」
狼くんはいつだって落ち着いていて、声を荒げることなんてなかった。
いまみたいに取り乱すところなんて、見たこともない。
気になるけど、でも、もう気にしちゃダメなんだ。
そう自分に言い聞かせて、剣馬の腕をひっぱり教室へ向かう。
戻ってきてほしい――。
懇願するような声が背中にかけられた気がしたけれど、きっときのせいだ。
私の願望が幻聴を引き起こしたんだろう。
もう心を乱されたくない。
迷わせないでほしい。
まだ胸の奥底でくすぶる残り火が、ふたたび大きくなってしまわないように。