ぜんぶ欲しくてたまらない。



「じゃあまたね、芽依ちゃんっ」


「うん、バイバイ」



気づいた頃にはもういつも通りの笑顔で手を振っている。


わたしはその手にただ振り返すことしかできなかった。


梨里愛ちゃんはわたしがコウくんのことを好きだって多分わかってる。


そんな釘を刺されてしまったら、もう何も出来ないじゃん。


今日、梨里愛ちゃんはバイトが休みだと言っていたからきっと会うことはない。


でも、また梨里愛ちゃんとコウくんのシフトが一緒になる日は絶対にある。


自分の気持ちに真っ直ぐで、自分の思いを言葉や行動にすぐ移せる梨里愛ちゃんは、コウくんとまた近づくんだと思う。


それをもうわたしは止めることができない。


どうするのか選ぶのはコウくんだから。


面倒くさいってバイトやめてくれないかな。



行ってほしくない。

バイトに行かないでほしい。

梨里愛ちゃんと会わないで。



"協力してほしい"と言う梨里愛ちゃんに"わかった"と返事をしてしまったのは紛れもないわたしなのに。


本当にわたしは自分勝手。


真っ黒な自分の気持ちが嫌になる。


胸がキューっと締められて、とても苦しい。


きれいさっぱり、コウくんへの想いを消してしまいたい。



そしたらきっと、楽になれるのに。



でも、どうしようもなくコウくんのことが好きなわたしは、そんなこと絶対にできないんだろうな。





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