ぜんぶ欲しくてたまらない。



「えっと、芦沢さんだよね?」


「……?」


「突然話しかけてごめん。俺、奥田(おくだ) (かい)!隣の席だから、よろしくね」


「うん、よろしくね」



わたしは元の席より少しだけ後ろに下がったところ。


お隣は奥田くんらしい。


話すのは初めてかもしれない。


コウくんが窓側の一番後ろの席になったことを知ったのは、授業が終わったあとのこと。


奥田くんは気さくに話しかけてきてくれて、あっという間に仲良くなった。



「奥田くんバスケ部だったんだ」


「うん、中学から続けてて高校でも早くレギュラーメンバーになって試合にたくさん出るのが目標なんだ」


「へぇー、目標があるってかっこいいね」


「あはは、芽依ちゃんって面白いね!」


「……っ」


「あっ、名前で呼ぶのは嫌だった?」


「ううん、全然!突然でびっくりしちゃっただけ。名前で大丈夫だよ?」


「そっか、よかったー。嫌われちゃったかと思ってドキドキしたよ」



無邪気な笑顔にドキッとした。


奥田くんは優しくて、とても話しやすい。


ずっと沈んでいた心の傷を癒してくれるような気がした。





< 164 / 261 >

この作品をシェア

pagetop