ぜんぶ欲しくてたまらない。



カランカランと下駄を鳴らしながら玄関を出る。


チラッと隣のドアを見るけれど、そこから人が出てくる気配は全くない。


いつの日かは、珍しくドアの前にもたれて待っている時もあったっけ。



……コウくん。



今はない姿を思い出しては、現実に落胆する。


ばったりお祭りでコウくんに会えたりしないかな。


そんな奇跡、起こるはずないか。


だってコウくんは極度の面倒くさがりや。


そして人混みが大嫌い。


よく小中学生の頃、お祭りに一緒に行ってくれていたなと思うくらい。


今日は咲良ちゃんと約束してるから勝手にコウくんを誘うわけにはいかない。


……なんて考えているうちに時間はどんどんと過ぎていく。



早く駅に行かないと約束の時間に遅れちゃう!




下駄が脱げてしまわないように気をつけながら、待ち合わせ場所まで急いで向かった。




駅に着いたのは時間の10分前。


急ぎすぎて少し早く来すぎたかな?


そう思ったけれど、駅にある時計の前に咲良ちゃんの姿を見つけた。



「咲良ちゃーん!」



咲良ちゃんの浴衣はアイボリーの生地に淡い色の朝顔柄。


ラベンダー色の帯に同じ色の髪飾り。


女の子のわたしでも思わず見とれてしまうくらい似合っている。




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