ぜんぶ欲しくてたまらない。
「んー、迷っちゃうなぁ」
首を傾げて思い出しながら考える咲良ちゃん。
「人がいすぎて迷子にならないように必死だったから、ちゃんと見れてなかったかも……」
それにコウくんのことも気になっていたし。
「芽依ちゃんは極度の方向音痴だもんね」
春の新入生オリエンテーションのこともあり、須藤くんにもわたしが方向音痴だと知られてしまった。
クスクスと笑われてしまって恥ずかしいけれど、こればかりは直したくても直しようがない。
「航大は?」
次に須藤くんはわたしの後ろへと視線を向ける。
咲良ちゃんの後に続いて、わたしもコウくんの方を振り返った。
「……俺は、なんでもいい」
「ったく、航大らしいよな」
遠くを見つめたままぶっきらぼうのコウくん。
暗い雰囲気を吹き飛ばすように笑う須藤くんと、それにつられる咲良ちゃん。
気を使って場を盛り上げようとする2人の優しさを感じる。
「わ、わたし……!た、たこ焼き食べたいなぁ!」
しっかりしなきゃ、わたし。
そう自分に喝を入れて、カタコトになりながらも発言をする。
適当に目のついた屋台がたこ焼き屋さんだった。
「そこは好きないちご飴じゃないの?」
「……へっ」
そうツッコミを入れたのはコウくん。
相変わらずこっちを見てはくれないけれど、反応してくれた。
それだけでわたしは嬉しくなってしまう。