ぜんぶ欲しくてたまらない。
「今ね、夕飯作ってたんだけど牛乳が切れちゃって……申し訳ないけど買ってきてくれる?」
わたしのお母さんはちょっと抜けているところがあって、こうして夕飯を作り始めてから足りないものがあることに気づくことが多い。
その度にわたしは買い出しのお願いを受けている。
「うん、わかった」
「いつもごめんね、芽依」
「もう、しっかりしてよねー」
こんなやり取りを今まで何度したことか。
お母さんからお金とエコバッグを受け取って、玄関を出た。
「……あれ?」
今日は隣が騒がしいと思っていたけど、誰か引っ越してきたんだ。
わたしの今住んでいるマンションの隣の部屋は、2年前からずっと空室になっていた。
小さい頃からいつも一緒に遊んでいた幼なじみがそれまで住んでいた。
中1の3月。
中2に進級するタイミングでコウくんのお父さんが転勤になって、遠くへ引っ越してしまったんだ。
コウくん……元気かな?
わたしはコウくんのことがずっと大好きだった。
次のお隣さんはどんな人だろう。
そんなことを思いながら、引越し業者の人に頭を下げて近くのスーパーへと向かった。