ぜんぶ欲しくてたまらない。
美味しかったね、花火楽しみだね、なんてみんなで話していた時だった。
せっかく昼間の重たい空気がなくなって、楽しい時間が過ぎていたのに。
1人の女の子が現れて、そんな時間は一瞬にして終わってしまった。
「えっ、航大くんっ!!」
高い女の子の声。
多くの人でザワつくこの会場でも、その声はハッキリと聞こえた。
わたしたち4人とも、この声には聞き覚えがあった。
だってこの声は───
「……梨里愛ちゃん」
ちょっとだけ和らいでいたコウくんの表情が、その名前を口にした途端に固まったのがわかった。
なんでここに。
いや、おかしくはないんだ。
梨里愛ちゃんはこの近くに引っ越してきたと言っていた。
だから、お祭りに来ていてもおかしくない。
「まさかここで航大くんに会えるなんて思ってなかった!」
真っ直ぐにコウくんへ笑顔を向けて、一緒に来ていたのであろう浴衣姿の女の子4人グループから抜けてこちらに小走りで来た。
それはまるでわたしたちがここにいるのが見えていないかのように。
「梨里愛ね、バイト先で航大くんと会えなくなっちゃって寂しかったんだよ。連絡しても全然返してくれないし……でも今日会えて嬉しいっ」
コウくんに微笑みかける梨里愛ちゃんの顔は、恋する女の子。
全身からコウくんへの好きが溢れている。
わたしたちが目の前にいながら全く口が出せないくらいに。