ぜんぶ欲しくてたまらない。



「ねぇ、奥田くんってば!大丈夫だったの?」



奥田くんが止まってくれたのは、人通りの少ない薄暗いスペース。



「俺の心配はいらないよ。それより、なんかあったんでしょ?ここならゆっくり話聞けるから」



奥田くんは優しく微笑む。


あぁ……せっかく涙が収まっていたのに。


そんな優しい言葉をかけられたら、また溢れだしちゃうよ。



「泣いてもいいよ。大丈夫、誰も見てないから。……おいで?」



わたしは鍛えられた奥田くんの腕の中に引き寄せられ、抱きしめられた。


優しく温かい胸の中。



「辛かったね。もう大丈夫だよ」



耳元で聞こえる奥田くんの声。


背中をトントンとしてくれる手から伝わる優しさ。




「……決めたのに。前に進むって決めたのにできなかったよぉ……っ」



奥田くんがせっかく背中を押してくれたのに。


弱いわたしは、また同じ過ちをおかしてる。



「芽依ちゃん、やっぱり俺にしない?」


「……っ」


「俺なら絶対芽依ちゃんにこんな辛い思いはさせない。絶対大切にする。芽依ちゃんを守るためならなんだってする。それくらい、芽依ちゃんのことが好きだよ」



このまま、この胸の中に飛び込んでしまえたら。


そしたら楽なのに……なんでできないんだろう。



「なぁ、待てよ」


「……へ?」



奥田くんが突然低い声を出した。


驚いて顔を上げると、奥田くんはわたしではない誰かに顔を向けていた。





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