ぜんぶ欲しくてたまらない。
……誰?
そう思い、奥田くんから離れて同じ方向を見た。
「……コウくん」
暗くてもわかる。
あの背格好。
スラッとしてるのに、ちょっと猫背なの。
色までははっきり見えないけれど、あの服装は今日コウくんが着ていたもの。
大好きなコウくんのことなら、なんでも知ってるよ。
わたしと目が合ったコウくんは、表情こそ見えないものの、気まずそうに顔を逸らした。
なんでコウくんがここにいるんだろう。
一緒にいたはずの梨里愛ちゃんは?
どこに行ったの?
「よかったね、芽依ちゃん」
「えっ?」
「アイツ、きっと芽依ちゃんのことを探しに来てくれたんだよ」
奥田くんはわたしから一歩下がってそう言った。
コウくんがわたしを探しに……?
梨里愛ちゃんを置いて?
「……なんで」
「それはちゃんと本人から聞いた方がいいよ。大丈夫、俺が保証する」
ポンとわたしの肩に奥田くんの大きな手が置かれた。
まだ涙でボロボロの顔なわたしに、奥田くんは微笑む。
「芽依ちゃん、俺が抱きしめても抱き返してくれないんだもん……あーあ、寂しいなぁ」
奥田くんはわざと大きな声を出した。
そんな大声を出してしまったら、コウくんにも聞こえちゃう。