ぜんぶ欲しくてたまらない。



……誰?


そう思い、奥田くんから離れて同じ方向を見た。



「……コウくん」



暗くてもわかる。


あの背格好。


スラッとしてるのに、ちょっと猫背なの。


色までははっきり見えないけれど、あの服装は今日コウくんが着ていたもの。


大好きなコウくんのことなら、なんでも知ってるよ。


わたしと目が合ったコウくんは、表情こそ見えないものの、気まずそうに顔を逸らした。


なんでコウくんがここにいるんだろう。


一緒にいたはずの梨里愛ちゃんは?


どこに行ったの?



「よかったね、芽依ちゃん」


「えっ?」


「アイツ、きっと芽依ちゃんのことを探しに来てくれたんだよ」



奥田くんはわたしから一歩下がってそう言った。


コウくんがわたしを探しに……?


梨里愛ちゃんを置いて?



「……なんで」


「それはちゃんと本人から聞いた方がいいよ。大丈夫、俺が保証する」



ポンとわたしの肩に奥田くんの大きな手が置かれた。


まだ涙でボロボロの顔なわたしに、奥田くんは微笑む。



「芽依ちゃん、俺が抱きしめても抱き返してくれないんだもん……あーあ、寂しいなぁ」



奥田くんはわざと大きな声を出した。


そんな大声を出してしまったら、コウくんにも聞こえちゃう。






< 231 / 261 >

この作品をシェア

pagetop