ぜんぶ欲しくてたまらない。



「俺は応援してるよ、芽依ちゃん」


「……っ」



肩に置かれていた手を離し、その手でわたしの頭をポンポンとする。


そして奥田くんはわたしから離れ、コウくんの方へと歩いて行った。


わたしは奥田くんの後ろ姿とコウくんの姿をただ見つめるだけ。



「なぁ、倉敷」



奥田くんはコウくんの目の前まで歩いて立ち止まった。


それと同時に俯いていたコウくんが顔を上げた。



「芽依ちゃんが大切なら手離すなよ。これ以上芽依ちゃんを傷つけるなら、本気でお前から奪い取るから」



そのセリフはまさに宣戦布告。


わたしはその意味がわからない。



だって、奥田くんが言っているそれはまるで───コウくんもわたしが好きだって言ってるみたいじゃん。



わたしの心臓がドクンと音を立てる。


奥田くんはコウくんの返事を待つ前にここから立ち去ってしまった。


きっと一緒に来てきたバスケ仲間の元へと戻るんだろうか。



「……っ」



ここに残されたのはわたしとコウくんの2人きり。


そんなわたしたちの間には5メートルくらいの距離がある。


まるで今のわたしたちの心の距離のように。





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