ぜんぶ欲しくてたまらない。



「別に普通だよ……そろそろ帰る」


「え?」



コウくんは逃げるように立ち上がった。


まだわたしの部屋に来てからそんなに時間経っていないのに。


わたし、何か変なこと言った?

コウくんに嫌なことした?



「あの、コウくん……ごめん、嫌なこと言った?」


「芽依は悪くないから」



ジュースご馳走様、とだけ言い残してコウくんはわたしの部屋から出ていってしまった。


わたしひとり、部屋の中で立ち尽くす。


コウくんはわたしは悪くないと言ったけど、絶対にコウくんは怒ってた。


ちゃんと謝らないと。


そう思って急いでリビングに戻った時には、もうコウくんは帰った後だった。



「航大くんママに入学式でちょうどばったり会っちゃったのよーっ!しかも運がいいことにお隣が空いててまた同じマンションに住めるなんて嬉しいわねっ」



お母さんはお皿やコップを片付けながら上機嫌。



「わたし、部屋にいるね」



それから何度もメッセージアプリのコウくんのページを開いては閉じての繰り返し。


コウくんが何に対して怒っていたのかわからなくて、結局メッセージを送ることはできなかった。



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